Episode 01
日本の外食業界のトップキャリア!
10店舗を統括するゼネラルマネージャー
NGUYEN THANH TRUC
グェン タン トルック(ベトナム出身)
株式会社ヒロフードサービス
(2016年入社・ゼネラルマネージャー)
店内に⼊ってきたトルックさんは、すぐさま何かを⾒つけたかのように若い外国⼈スタッフに近づき、⼩声で何かを話し始めた。
接客の際の所作に気になる所があったのだろう、⾝振り⼿振りを交えて指導する。
叱るわけでもなく、かといってフレンドリーな対話でもないが、物腰はとてもやわらかい印象だ。
別の来客を察してトルックさんの表情が変わる。
「いらっしゃいませ!」
2⼈とも笑顔でうなずき、スタッフはホールへと戻っていった。
すぐさま、トルックさんは調理スタッフに話しかけながら、眼は別のスタッフの動きを追いかけている。
⼊社8年⽬を迎えたトルックさんは、キャリアアップ制度を採⽤しているヒロフードサービスの外国⼈スタッフの中で、最も上位となるゼネラルマネージャーを務めている。
統括している店舗は、現在10店舗に及ぶ。
トルックさんは、同社にキャリアアップの仕組みができて以降、常に先頭を⾛り続けてきたリーダーだ。
社内だけでなく、おそらく⽇本の外⾷業の中でもトップのキャリアだと⾔っても過⾔ではない。
後輩たちのキャリアアップのためにも、⾃分はさらに上をめざすべき⽴場にある。
そんな期待とプレッシャーがかかるトルックさんだが、リーダーとは⾔え仲間をグイグイ引っ張ったりするタイプではない。
「元々おとなしい性格で、⼩さい頃からよくいじめられていました。家庭内でもしつけが厳しく、いつも孤独でしたね。そんな⾃分が嫌で、いつも“変わりたい”と思っていました」
そんな想いを胸に、⾼校を卒業してすぐ⽇本で働くことを決断。
誰にも頼れない、⽢えられない未知の世界へ⾶び込んだ。
技能実習⽣として⽇本の⼯場で3年間働いて、帰国。
⺟国で結婚・出産をしたが、家族を養うため再び来⽇することになった。
自分を変えてつかんだ
キャリアアップ
今では、日本の外国人労働者の1/4以上を占めるベトナム人だが、トルックさんが再来日した2016年頃は、まだベトナム国内でもそれほど多くの人が日本に向かっていた印象はなかったそうだ。
そこから毎年増加率トップで増え続けることになるのだが、当時は今と違ってネットでの情報も限られていた。
トルックさんもどんな仕事や会社で働けるのか分からないままベトナムを発ち、日本に来て初めてヒロフードサービスのことを知ったという。
「何も知らない、何もできない状態だったので、私にできるのか不安でいっぱいでした。ですが、この会社の社長をはじめ、日本人スタッフはみんなやさしく、一から教えてくれました。私ができるようになるまで、ずっと寄り添ってサポートくれたのです」
仕事を覚えた後は、次々と入社してくる外国人スタッフの先輩として、教育係となったトルックさん。
数年を経て、その仕事ぶりが社長の目にとまることになる。
「スタッフとして3年働いた後、社長から店長にならないかと声をかけてもらいました。外国人の店長がまだいなかった時代だったので、とても不安でプレッシャーはありました。でも、何もできなかった私をここまで育ててくれた社長や会社の方々の期待に応えたいという思いが強く、店長にしてもらうことを決めました」
初の外国人店長という期待を背負っての挑戦だったが、思った以上に壁は高かった。
店のスタッフには日本人も外国人もいたが、コミュニケーションが上手くとれず、次々と辞めていった。
店長としてのスキル不足を痛感し、上からの期待がストレスに感じるようになっていた。
「この時は、ベトナムでの学生時代のように“孤独”を感じていました。何か問題があれば相手から話をしてくると思い込み、自分からコミュニケーションをとろうとしていませんでした。でも、日本に行こうと思ったきっかけだった“自分を変える”ことを思い出したんです。相手が変わらないなら、自分が変わるしかないって」
自分の殻を破り、スタッフと積極的なコミュニケーションを始めると、徐々に店の雰囲気が変わり始めた。
笑顔があふれる店には、お客さんも集まってくる。
お店の売り上げも全店舗で1位を獲得。
その功績が評価され、入社5年目でマネージャーに抜擢。
これも外国人初の快挙だった。
「店長はみんな外国人で、ネパール人やミャンマー人は私にとっても外国人。もちろん日本人スタッフもいるので、やっぱり初めはコミュニケーションが大変でした」
時々“孤独”を感じそうになる時はあるが、対峙するスタッフへの思いは、プレッシャーからモチベーションに変わった。
「後輩が仕事を覚え、成長し、頑張っている姿を見ると、私ももっと頑張ろうってパワーをもらっています」
“自己成長できる道”を自ら選んで歩んできたトルックさんの背中を見て、後輩たちが真似をして成長する“会社の空気”が感じられた。
小さな夢だけど
もうすぐつかめる“本当の幸せ”
トルックさんの将来の夢は2つある。
ひとつは、娘を日本に呼んで一緒に暮らすことだ。
「家族が一緒に暮らすことは、多くの日本人にとっては当たり前ことですが、日本人の家族が一緒にご飯を食べている様子を見て、うらやましいと思ったこともあります。でも、娘と暮らせるようになったら、一緒に過ごせなかった時間をすべて取り戻すくらいずっと側にいて、一緒にショッピングや旅行に行きたいですね。今はその時間を貯金しているんだと思っています」
もうひとつの夢を尋ねると、トルックさんは少し恥ずかしそうにこう言った。
「今の自分があるのは社長のおかげ。これからもずっと社長について行きたい」
外食業の仕事は、外国人労働者の就業希望者も減少傾向にあり、離職率も高い。
それでも、そこに身を置きたいと願う人がいる。
その一端を垣間見ることができたような気がした。